トランク、そしてアタッシュケース。男の旅をガードする、堅牢なるバッグの世界へ

トランク、そしてアタッシュケース。男の旅をガードする、堅牢なるバッグの世界へ

旅という人生の一シーンにも、いろいろな形があります。バックパッカーというワイルドな旅の形は、呼称自体は新しいですがおそらくコンセプトとしては太古からの人類が続けてきた、危険を伴なう移動生活への回帰が込められていると思われます。
しかし所謂文明国を標榜する世界での本来の旅の形は、旅の間も可能な限り「文明人」としての矜持を保とうとするものでした。
その旅の形を象徴していたのが、かつてトランクと称されたハードタイプのバッグです。
今回は、バックパッカーには一見無縁ながら、奥深いメンズの旅を演出し、またその可能性を広げる堅牢なるバッグ、トランクの世界を覗いてみたいと思います。

1.トランクとアタッシュケースは同じか?

トランクというと、思い出すのが大正期の詩人で童話作家の宮澤賢治が岩手県から東京にかけての旅行に使用した鞄です。故郷の父に反発し東京に家出した賢治は、猛烈な創作意欲を発揮して膨大な量の童話を執筆。その後、実家の妹の病状を知り急遽帰郷します。その際書き上げた全ての原稿用紙を詰め込んだのが、トランクでした。帰郷した兄に対面した弟の清六が後に『兄のトランク』と題しその時の様子を記しています。
トランクケースという呼称は現在でも使用されており、実のところトランクを始めスーツケース、キャリーケース、そしてアタッシュケースと呼ばれるものは、全て同じ物であって、単に呼び名が多いだけだと言われています。とはいえ、呼び方から想起されるイメージはかなり違いますが、共通するのは

・長方形で大型、形の変形しない箱である事
・開口部に鍵が常備されている事
・基本的に取っ手を片手で握り、運ぶ事

以上3点。現代のスーツケース、アタッシュケースにはショルダーベルトや小型の車輪が付いており、機動力の向上が図られています。
鍵が標準装備である事、そして堅牢である事から、これらが「重要な物品を運搬する」ために作られた事が示されています。もちろん、宮澤賢治の原稿も含め、スーツケースの名の通り、旅行中の衣類等を正しく収める意味でも旅をともにする物品は全て大切なものですが、特にアタッシュケースという呼び名でイメージされるアルミ製の外観を持った種類は、旅を超えた目的をも感じさせます。

アタッシュケースを強烈にイメージづけるのは、何といっても映画やTVでしばしば見かける、大金・札束がぎっしり敷き詰められたあのシーンでしょう。他にも新幹線や飛行機内で急患がいた際、居合わせた医者が医療器具を取り出すのも大抵アタッシュケースから。その場の流れ、命運に関わる重要な物品を収めておける信頼感を無意識のうちに大衆意識に刻み付けています。

2.呼び名別に各種を紹介!

ではここから各呼び名でイメージされるそれぞれのタイプ、その選りすぐりを見ていきましょう。まずはアタッシュケースから。

出典:Amazon

アルミ製は2000円台からと、かなりお手頃な商品もありますが、やはり大切なモノを守るという目的からすれば上を目指したいところ。
とはいえ、堅牢一徹なばかりがアタッシュケースではなく、ビジネスパーソンのオシャレ心にも響く粋なデザインのものも少なくはありません。
写真はゼロ・ハリバートンのZRP-Aアタッシェ。NASAに採用され、かのアポロ計画で活躍したという絶対の信頼を誇るブランドです。

 

出典:PROTEX

日本の誇るハードケースブランド、プロテックスの「ポータファイル」。こちらも宇宙開発や防衛に携わり培った精密機器保護の技術が生かされ、収納物を守り抜きます。

 

出典:Yahoo!ショッピング

お次はキャリーケース。写真を見るとわかる通り、基本的に同じ物とはいいながら、やはりキャリーケースは独自に進化したアイテムだと判断しても間違いはなさそうです。ネット上でも、「スーツケース」か「キャリーケース」で検索すると、このタイプがヒットします。キャリーケースは旅行用に特化されていて、女性向きのデザインも多いのはよく知られていますが、非常に個性的なデザインの製品も少なくありません。上の写真はマルチツールで知られるVICTORINOX製のSPECTRA MIDIUM EXPANDABLEで、デザイン、機能性ともに優れた傑作キャリーバッグです。

出典:TravelerStore

こちらは2018年度「ジャーマンデザインアワード」の受賞作で、グラスファイバーを使った独自の軽量・堅牢な骨組と細部まで機能性にこだわったソフトタイプの外観を持つ、ストラティック・オリジナルです。

最後に、冒頭にも挙げましたトランクで締めたいと思うのですが、ここはやはり古くからのイメージを大切にして、宮澤賢治も使ったかも知れない2本ベルト型に迫りたいところです。

出典:鞄のマスミ

何と、兵庫県の「豊岡鞄」が復刻版を制作していました。豊岡鞄の始まりは明治時代の「行李鞄」発売から。この行李鞄は3本の革バンド締めで、既に鍵が付いていました。
価格は37万円強。いかに本革トランクが明治の昔から高価なものだったかが窺えますが、外観だけでなく内側も実に味のある作りで、バックパッカーですらも旅のスタイルを変えてこれに持ち替えたくなるほどの魅力を放っています。

 トランク、アタッシュケースには無縁だと思っていた男性諸氏も、是非自ら見極めた一台を手に、味わい深い旅路への、そしてもう一段上のビジネスシーンへの第一歩を踏み込んでみてはいかがでしょうか!